彼女と別れて、およそ1ヶ月が経った。

私は、もやもやした気持ちを振り切れず、就活や公務員受験に翻弄されている同級生たちに揶揄されるような、ダメな元カレの1人になった。

彼女への熱はまだ冷めておらず、日常生活の端々にくすぶってる気持ちが顔をだしている。

何度も葛藤し、迷う。力が入らない。自分のこれからの人生を生きる意欲も、覚悟も、すっからかんになってしまっている。たとえそれが、今後の人生を大きく左右する大切な時期だとしても、そんなことは今の私にはなにも関係がなかった。男とは、つくづく情けなくてバカな生き物だと思う。

 

 1日の目覚めの時間が、数時間も遅くなり始めたのは、別れて2週間後のことだった。

ベッドの上で意識が目覚めても、身体が起きていこうとしない。杖を失くした老人のように動くのが億劫になってしまっていて、何かをしたいと望んでいないのが分かる。全てを諦めているような絶望感が頭をよぎって、もう一度、眠ってしまうのを繰り返している。

 ベッドを出てからも、数時間の間はいい心地がしない。辛くてきつい気持ちを切り替えるために聴いていたポップス音楽に対しても、心の反応がどんどん鈍っていった。服装を整え、ヘアスタイルを造り、重たい荷物を背負ってから、大学に行くためにドアを開けたときには、いつも外にある太陽は西の方に傾き始めていた。

 

 「皿坂さんが、とてもおつらそうなので」

そう言って、その人はルーズリーフの切れ端で包んだじゃがりこを机の上に置いた。

 「これ、お届けものです」

パーマがかった黒髪が揺れて、そこから見えた大きな瞳がこちらをまっすぐ覗き込んでいる、八尋るりは私と同い年の後輩だ。

 「・・・なんで、じゃがりこなんだよ」

 「あれ、皿坂さん、じゃがりこお嫌いでしたか、やっぱりたけのこの里がよかったですか」

 「いや、そういうことじゃないけど、ありがとう・・・」

八尋は、臆面もなくうれしそうにして喜んでいた。八尋は、変わった人だ。元気のない人を見るとほおっておけない性格らしい。八尋のはにかむ顔の方が私にとっては、つらい気持ちを癒してくれるものだった。顔は美人な方だと思うが、大学では友達がいないらしく、3年生になっても、私の前にちょくちょく現れ、連絡をしてくる。

  「たまには、誰かに頼ってくださいね。皿坂さんって、いつも忙しくて大変そうなのに、『楽しんでるから大丈夫』って言ってますよね。誰が見たって辛いように見えるときもあるのに、楽しいって言ってるんだから。私は、先輩にはわりと幸せになってほしいと思ってるんですよ!」

 そう励まして、八尋は、私の腕をポンと叩いた後バイバイをして、バイトに向かった。