疑問です


兎角、とかく、私は疑問です。

とにもかくにも、私は日々に静かな不満を募らせています。


引きこもりのろくでなしが、王国の職員になるという無謀な挑戦を、無事にクリアしたので、私はいずれ王国に仕える身となるでしょう。


しかし、王国は「いずれ」と言ったきり、便りを寄越してこないのです。

私は首を長くして待ちました。その間に、引きこもりのろくでなしは、24Hという接客をはじめ、そしてワンオペという技を身につけて、今日で退職を果たしました。

それでもまだ、便りの連絡も届いておりません。わたしは、いま、気が気でないのです。


もうあとには引けません。

周りの同胞にも、王国の職員になることを、声高々に宣言したというのに、綿貫の日になっても、わたしは王国にまだ仕えておらず、無職のまま、アカデミアの肩書きだけ剥奪されてしまうのです。

我が王国は、王国の職務に関わるものを手厚く扱ってくれますが、そうでないものに対しては、ひどい扱いと蔑みの視線を与えます。


あぁ、わたしは、それがこわい。

アカデミアで私を尊敬してくれた後輩たちが、私のことを「あっ」と察するでしょう。

そのことを想像するだけで、お腹が痛くなってしまいます。人生にはsuccess storyしかいりません。特にわたしの人生は特別です。


老爺はわたしにいいます。

「いまを楽しめばよいじゃないか」と。


しかし、このところ、わたしは「いま」を楽しめなくなっております。


わたしの1日は、お天道様が真上に上られた頃から始まります。24Hでお仕事をしながら、日々勉強に励んでおり、夜は電脳世界の海を泳ぎぬきます。

わたしは、電脳世界の海に潜ることが得意で、いろいろなものに出会い、それを記録し、蒐集することが趣味なのです。

王国は、電脳世界の海も、いずれ支配下におこうと、日々外交活動や戦争を行なっていますが、私は、密かに泳ぐことを好んでいる故、この海のことは誰にも明かしてはいないのです。


でも、これを読んでくれてるみなさんにだけ明かしてあげましょう。実はこのところ、電脳世界の海に潜ることが、あまり楽しくないのです。

原因の1つに、自身の眼球に異常があることに気付いたからです。電脳世界の海とは、光の世界でもあります。私の眼球に届くものは光なのです。

光は、私の眼球の中に皺を増やしていきました。そのせいで、私の見上げる世界には多くの透明な蚊が舞っています。


もうひとつの原因は、瑠璃さんのことです。瑠璃さんと一緒に過ごす日々は、それはもう幸せです。世の中には、お金で買えないものがあるといいますが、瑠璃さんはまさにそうです。

浮かれてしまってごめんなさい。とかく、瑠璃さんにも、わたしが王国の職員になることを告げているのです。瑠璃さんはとても嬉しそうに、これからのことをポツポツと語るときがあります。


王国に仕えることができず、また城下町でも働くことが出来なかったら、わたしは、瑠璃さんと破局をしなくてはなりません。

そして電脳世界の海に永遠に潜り続けて、アカデミアからも、24Hからも、誰の記憶からも忘れ去られるまで、出てくることは出来ないでしょう。


老爺は言います。

「まぁ大丈夫でしょ。果報は寝て待て」


眠る前には、花束を添えてください。

わたしがいつ起きなくなってもいいように。

電脳世界の海を泳ぎ渡り、魔法の力で深い眠りにつく。瑠璃さんと喧嘩をするときもいずれは必要だろう。彼女との愛を決めるのは、王国の職次第だ。私はバカなままだ。


人生はいつでもギャンブルだ。

アカデミアのみんなは、それを見守る観衆であってほしい。